ずっと前、まだWEB制作を仕事にする前、nanoloopというGameboyで動作するソフトウェア・シンセサイザーを使って、チープな電子音楽をつくっていました。
ちょうどインターネットが普及しはじめた時だったので、独学でつくったホームページに音源をのせて、海外のいろんなレーベルにメールを送っていると、アメリカの555 Recordingsというレーベルのスチュワートさんから返信が来て、今度コンピつくるから参加しない?と言われ、レーベル名にちなんだ55曲入りの(1分弱の曲ばかりを集めた)アルバムに入れてもらいました。
その後もスチュワートさんに「こんなのできたよ」と送り続けていると、いいやん!となってアルバムを出してくれることになり、25歳のぼくは有頂天になりました。その時、スチュワートさんの助言に逆らって、紙ジャケではなくプラスチックケースを選択したことを、今でも後悔しているのです。
スチュワートさんから何度も「紙ジャケのほうがクールだし、輸送コストも抑えられるから、紙ジャケにしてくれ」と言われました。しかしぼくは、CD収納ラックにきちんと収まらないという、ただそれだけの理由で紙ジャケを拒み、頑なにプラケースにこだわりました。結局スチュワートさんが折れて、プラケースでいくことになりました。
500枚プレスされ、そのうちの50枚がアメリカからぼくの家に送られてきました。それを自分で手売りしたお金が、ぼくの報酬ということです。頭のどこかでお金を貰えると思っていたぼくは、その時はじめてインディーズのリアルを知りました。自分の作品がCDになったことに感動したけど、段ボールの中に積まれた50枚のプラスチックケースが、なんだか味気ないモノに見えてきました。
プラケースのやり取りから、スチュワートさんとの間に気まずい空気が生まれてしまい、その後メールをやり取りすることは無くなりました。
スチュワートさん、元気かな?あの時ちゃんとスチュワートさんにお礼を言えていないような気がする。遠い国の、見ず知らずのぼくの音楽に耳を傾けてくれて、拙い英語にも辛抱強く付き合ってくれて(まだグーグル翻訳のような便利なものはなかった)、当時の小さな夢を叶えてくれたことに対して。今度スチュワートさんに手紙を書こう。そしてプラケースにこだわったことを謝ろうと思う。
ちなみにこの時の体験で、ぼくはインターネットの可能性にシビれ、ホームページ制作の道に進むことを決意しました。