小さなデザイン事務所のまじめなホームページ制作

デザイン&アートのこと

量が質を超える

森山大道さんのワークショップに参加した人が、森山さんに撮った写真を見せると、大抵「撮った数が少なすぎる」と言われるらしい。シャッターを押す前にあーだこーだ考えすぎて、結局撮った枚数が森山さんのそれと比較すると、圧倒的に少ないそうだ。素人よりも、巨匠のほうが、貪欲に数を稼いでいるというのは、とても興味深い話です。

例えばルアーフィッシングでも、釣れる人は釣れない人よりたくさんルアーを投げている、これは真実です。いいキャッチコピーを書くための秘訣は、頭であれこれ考えるより、とにかくたくさん関連する言葉を書くことからはじまるし、デザインも1発で決まればラクだけど、実際はこれでもかこれでもかと、作り続けた先にゴールがあると思います。

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濵本奏さんの「midday ghost」

middayghost

たしか本屋青旗さんが出来て間もない頃、そこで濵本奏さんの「midday ghost」を見て、うわ、いい!と思ったけど、当時はすでに評価の定まった過去の名作ばかり追いかけている時だったので、いや、これを買うよりも、中平卓馬やエグルストンの古書を探して買ったほうがいいだろうと、そんな風に思ってしまいました。

自分の感性を信じられるようになるには、それ相応の数をこなす必要があって、それはアートに限らず音楽でもなんでもそうだと思うけど、数をこなすことによってはじめて「自分でジャッジできる眼」が養われますよね。そしてようやく最近、写真集の分野でそれを獲得しつつあります。

「midday ghost」は一見すると、逆光でぽわーんとさせたエモいと言われる写真群に似てるように見えるけど、否、似て非なり、20歳の女性が撮ったという事実が、更にそういうカテゴリーに入れてしまいそうになるけど、違います、壊れたカメラはただの手段にすぎない、確固たる自分の世界がある。

ぼくは一時期、ローファイと呼ばれる音楽を熱心に聴いていた時期があって、ペイヴメントとか、ガイデッド・バイ・ヴォイシズとか、初期のベックとか、そういう人たちの音楽、王道のやり方なんて最初から気にもかけず、未完成の美学を追求していく、そんなローファイ精神が濵本さんにあるとは思えないけど、ぼくの中のローファイ魂が、4年前のあの時、うわ、いい!と思わせたんじゃないかと思うんです。傑作。

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写真がいってかえってきた

写真集は大きいほうがいいと思っていたけど、佐内正史さんの「写真がいってかえってきた」を手にして、これぐらいの小さな写真集もいいな、と思うようになった。コデックス装でぱかっと開くから、適当なページを開いたまま机の上にポンっと置いて、仕事中チラチラと佐内さんの写真が目に入る、という状況を楽しんでいます。

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その森の子供



ホンマタカシさんの「その森の子供」は、福島、スカンジナビア、チェルノブイリ、原発事故で汚染された森のキノコを撮っていて、そこにメッセージ性はあるんだけど、そういうのを抜きにして、シンプルにキノコの写真がいいのです。キノコの写真を見て「ゲージュツだ」とか言って、悦に入るような人間は嫌だなと思いますよね、わかります。でもスーパーマリオ世代はキノコ好きでしょ。時々挟まれる静謐な森の写真もよくて、ホンマさんは森でキノコを採取したら、その場に白い紙を敷いて撮影したらしく、紙の上には土や菌糸もバッと散っていて、「そこ」で撮ったというリアルが伝わってきます。

ぼくが小学生の時、家の近くに小さな森(森と呼べるほどの大きさじゃなかったかもしれない、子供の感覚で森だと思っていた場所)があって、よくそこで一人で遊んでいました。どんぐりを拾ったり、良い形をした木の枝を探したり、セミが脱皮する姿を初めて見たりしました。KUMONの教室に行くのが嫌で、そこで暗くなるのをじっと待ったこともあります。そんな森のことはすっかり忘れていたのに、キノコと森の写真を見て、急に思い出しました。

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長島有里枝さんの「SWISS」



長島有里枝さんといえば、パンクでハードな人というイメージを勝手に持っていたけど、14年ぶりに復刊された「SWISS」を見て、そのイメージが180度変わりました。こんなにやさしくてまっすぐな文章を書き、そして綺麗な写真を撮る人だったのか。

一度書店でパラパラっと見た時は、ふーん、花の写真、しかも文章が付いている、写真集に言葉はいらないな、と思いました。でも「SWISS」は写真集に言葉があるのではなく、写真と文章が対等に存在していて、それぞれが素晴らしく、相互作用もしていて、フォトエッセイとは呼びたくない、それだと軽すぎる、でも純粋な写真集でもない、いままで見たことのない、新しい体験でした。長島さんが5歳の子供とスイスで過ごした3週間を体験できる本。だから書店でパラパラっとめくっただけでは、この本の素晴らしさは分からないのだ。

本当に良い本を手にした時、ページをめくるのがもったいないと感じるけど、これはそういう本です。

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東京都写真美術館の思い出



そういえば、東京都写真美術館でやっていたアレック・ソスさんの写真展に行ったことを、ブログに書いていませんでした。なんで書いていなかったというと、写真集を超える感動はなかったからです。あと、図録の印刷の質も悪かった。なのにSNSでは誰もそれに言及せず、図録は売り切れてさえいた。まあそれは展示とは関係ないし、3000円だから仕方ないのかもしれないけど。

それよりもぼくは、4Fの図書館で見た志賀理江子さんの「Lilly」と、佐内正史さんの「生きている」に感動しました。それはたぶん、写真集そのものの魅力に加えて、あそこで鑑賞したという体験込みの感動だったと思う。

写真美術館の図書館というニッチな空間で、職員の人が裏の書架から大事そうに運んでくれた絶版写真集を静かに鑑賞する。そんな緊張感の中で見た「Lilly」や「生きている」は、何か特別なものを見ているという感覚があって、今後もし自分で手に入れて部屋で鑑賞したとしても、あの感動はもう得られないだろうと思います。カンボジアの料理は、カンボジアで食べたから美味しかったんだな、みたいな。

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そうか!

わからないことがあるのはいいことだ。なんでもわかってしまうとツマラナイから。ジャズに興味を持ったのもわからないからで、なんとかしてわかりたい!と思ってレコードを買い集めました。そしてわかった部分もあれば、いまだにわからない部分もある。

写真集に興味を持ったのもわからないからで、写真って目で見たものを正確に記録するためのモノなのに、そこに表現が介在して作品になったり写真集になったりすると、途端にわからないものになるから不思議です。あ、今これを書いていて思ったんですが(本当に書きながら思いついた)、目で見たものをカメラで記録するというのは、自分目線で考えると当たり前のことだけど、他者の目で考えたらそれは当たり前じゃないですね。だって他人の目から世界を見ることは出来ないから。他人の目に世界がどう写っているかは絶対にわからないから。それが写真を使うことで見ることができる。そうか!

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わからない

写真(集)を見るのも好きだけど、写真(集)や写真家に関することを、知識として吸収する時間も同じくらい好きで、むしろそっちのほうが好きなのかもしれない。写真(集)をじっと眺める時間よりも、写真論を読んだり、写真(集)についていろいろ調べたり、アートブック店や古書店のネットリストを見る時間のほうが多いかもしれない!典型的な頭でっかちタイプ。これはぼくの子供時代から続く傾向で、KOEI三国志をプレイする時間より、こたつでデータ本を読んでいる時間のほうが長かったのと同じです。写真の「わかりにくさ」が、それに拍車をかけるのであった。

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よくわからないもの

パッと見て、すごく良いなと思ったアート写真集を最近買いました。実際それは良かったんだけど、はじめから良さが分かってしまうものは、決してそこより先には行けないということを思い出しました。やっぱり「よくわからないもの」こそ買うべきで、そういうものが、自分を次の段階に連れていってくれる、ような気がします。

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エリザベス・ペイトン

エリザベス・ペイトンの画集

最近買ったアート本の中でいちばんのヒット作はこれ!エリザべス・ペイトンの画集です。カート・コバーンやリアム・ギャラガーなどのロックスターをモデルにしていて、ひと言でいうとカッコイイ絵です。バカっぽい感想ですが。シュッ!シュッ!と勢いよく筆を走らせながら、女性画家らしい優雅さがあり、カート・コバーンを描いた絵は、似てるか似てないかでいうと似てないんだけど、カートの雰囲気そのものが表現されていて、結局ひと言でいうと、カッコイイ絵です。本のつくりも良くて、途中いきなり引き延ばされた写真が1ページ出てきたり、サイズもちょうど良く、表紙も背表紙もカッコイイ一冊。

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ロスコ・ルーム

DIC川村記念美術館にマーク・ロスコの絵だけを7枚展示したロスコ・ルームという部屋があることを、原田マハさんの「いちまいの絵~生きているうちに見るべき名画」という本で知っていて、いつか見に行きたいなあと思っていた。そのことをふと思い出してWEBサイトにアクセスしたら、2025年3月に休館すると書いてある。えー!でもまだ間に合うぞ。コレクションには他にも見たい作品がいろいろある。サイ・トゥオンブリーの絵もぜひ見たいなー。残り5か月。川村記念美術館に行くという目標ができた。

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コット再び!

ネットを彷徨いながらコット情報を収集していると、なんと上映が終了したはずのKBCシネマで、3月11日から3月14日までの間、再上映されていることを発見してしまった。そんなことあるんだ!観たいなあ、もう一度スクリーンで。しかし、スケジュール的には今、かなり厳しい。うーむ。

昨日は、はぴりのさんの新しいモデルルーム撮影に立ち合い、帰りに丸善に立ち寄ると、いつのまにか4冊の本がぼくの手の中にありました。文庫3冊、デザイン本1冊。デザイン本は大原大次郎さんというデザイナーの方の作品集。今まで知らなかったけど、ぼくが好きな手仕事バリバリの制作スタイルで、大いに刺激を受けました。

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修正の跡

ノートに文字や絵を描いて
それを修正液や修正テープで
補修するのが好きです。

さらにその上から描いて
また修正液で塗りつぶして
また描いてを繰り返し
紙の上がゴツゴツしてくると
いかにもアナログな感じがして
とても良いのです。

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ベルギーにもイエグモはいるのか?


朝、ストレッチをしようと外へ出ると
ロジャー・ラヴェールの画集が届いていた。
そのままストレッチをしていると
「なんしようと?」と歯ブラシを
くわえた子供がやってきた。

暑くもなく寒くもなく花粉もない
最高の季節もやってきました。
イエグモがいたので
家の中にそっと招き入れます。

イエグモは小さな虫を食べるほか
たまに台所へ来ては水分補給をするそうです。
一度シンクの中にいた時は
水に流されないよう救出しました。

そんなイエグモへの愛情は
向こうにも伝わっているのでは?
と思えるほど、彼らに警戒心は無く
のびのびと過ごしているように見える。

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かっこいい

古いノートや拾ってきた紙に描く
フィリップ・ワイズベッカーさんや
大竹伸朗さんはかっこいい。

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デザインとは

『デザインは手段にすぎないんだけれども、しかし手段を超えたなにかがなければデザインは輝かない。意味を伝えるために存在していながら、意味を超えて輝くことを、だれもが無意識に期待している』(文字講座 – 服部一成)

『デザインに圧倒される時って基本的に造形のことだと思うんです。そのカタチに目も心も奪われるというか。デザインという仕事をよく言われる医者の役割に限定しすぎてしまった点はよくなかったですね』(あるインタビューより – 長田年伸)

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永遠のソール・ライター

福岡市美術館でやっている「永遠のソール・ライター」を見に行った。写真集 Early Color に掲っている写真もたくさん展示されていたけど、写真集で見るのとは全然違った。写真でありながら、絵画のようでもあった。絵画は本物を見るとやっぱり本物は違うなと感動するけど、写真もこんなに違うなんて知らなかったな。

その違いとは「サイズの大きさ」と「プリントの質」によるもので、「写真はプリントまでが作品」というデジタル世代の僕たちが忘れている事実を、ガツンと見せつけられました。プリントまでが作品だとしたら、今回展示されていた写真はソール・ライター本人がプリントしたものなのか?それとも本人はすでに亡くなっているから、誰か他の人がプリントしたのか?それはちょっとわかりません。

とにかくアート写真の良さを知ることができたので、いつかエグルストンの作品も見てみたいと思いました。


永遠のソール・ライター

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ヘタの美学




美術手帖の五木田智央特集がおもしろかった。
ぼくは作品を見るのも好きだけど
作り手の制作環境や考え方
趣味趣向を知ることも好きなので
この手の特集ものが大好物なのです。

ずっとヘタになるために
努力しているという五木田さん。
ヘタウマの元祖・湯村さんの
影響を多大に受けていて
有名なモノクロシリーズを辞めたのは
上手くなりすぎたからだそうです。

インタビュー記事でなるほどと思ったのが
「ヘタに描くことが重要ではなく
ヘタの面白さを感じ取れる『目』を
持っているかどうか」という話。

描く人、つくる人は
目の修練こそが最も重要で
それがいわゆるセンスというものになるのでしょう。
だからたくさん見ないといけないのだ。

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ゴッホ展で種まく人と2人きりになる

tanemakuhito


コロナ過ですけど、
ゴッホの絵がすぐ近くに来ているのに
見ないという選択はできません。

ゴッホ展、人が少ない雨の平日、
朝いちばんに行ってきました。

普通は入口から順番に絵を見ていきますよね。
そしてまんべんなく全ての絵を見ますよね。
でも今回のぼくは入場するやいなや、
他の絵には目もくれず、
奥のほうへと一直線に突き進みました。

「種蒔く人」をじっくりと
見たかったからです。

予想通り、絵は奥のほうにありました。
他の来場者はまだ入り口付近にいるので、
この瞬間、ぼくはあのゴッホの種蒔く人と、
まさに二人きりの状態になりました。
おおげさにいうと、
それはちょっと神秘的な体験でした。

やがて他の人がぞろぞろとやってきて、
神秘体験は3分くらいで終わりましたが、
そのあとも他の人の邪魔にならないように
遠くから種まく人をじっと見ていました。

小説「月と六ペンス」で、
ストルーヴという画家が、
美について語るセリフがあります。
種蒔く人を見ながら、
ぼくはそのセリフを思い出していました。

「いいかい、美という、およそ世にも貴いものがだよ、まるで砂浜の石ころみたいに、ほんの通りすがりの誰彼にでも無造作に拾えるように、ころころ転がっているとでも思うのかい? 美というものは、すばらしい、不思議なものなんだ。芸術家が、己の魂の苦しみを通して、世界の混沌の中から創り出すものなんだ」

月と六ペンス

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アートの楽しみ方を子供から学ぶ

ドイツの写真家 ヨヘン・レンペルトの
「FieldGuide」という、
小さな写真集があります。

すべてモノクロで、動物や虫、
植物などをユニークな視点で切り取った
写真が収められている素敵な写真集です。

夜、子供を寝かしつけるとき、
子供がえらんだ絵本を1冊読むのですが、
ある日この写真集を持ってきました。

ぼく「絵本じゃないけん面白くないよ」
子供「これがいい」

仕方がないので一緒に布団にもぐりこみ、
FieldGuideを開きました。

すると子供は先入観のまったくない心で、
生き物のカタチを面白がったり、
左右の写真で間違い探しをはじめたり、
これはあれに見える、
それはあれに見える、
この模様キレイやねー
といった具合に楽しんでいて、
ぼくはちょっと感動してしまいました。

ヨヘン・レンペルトさんもその光景を見たら
「そうそう、そういうことなんだよ」
って言うと思います。


ヨヘン・レンペルトの「FieldGuide」
ヨヘン・レンペルトの「FieldGuide」
ヨヘン・レンペルトの「FieldGuide」

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