人間の土地の第5章、よかったなあ。特別なストーリなんて何も無いのに。古い家の様子、家人の様子、食卓の様子、それらがただ描かれているだけなのに。でもそこにはすばらしい文章がある。
作者のサン=テグジュペリさんはもちろん、翻訳者の堀口大學さんも素晴らしいな!ぼくは翻訳なんて出来ないけど、それがいかに難しいかぐらいわかります。特に文学作品の翻訳は。
映画パターソンのラストシーンで、永瀬正敏さん演じる詩人が「詩の翻訳はレインコートを着てシャワーを浴びるようなものだ」と言います。真実かもしれない。でも原文を読むことができないぼくは、堀口大學さんが訳してくれた文章を浴びるしかないわけで、原文を知らないぼくは、レインコート越しではなく、裸に直で浴びているつもりです。
そして「訳す」なんて軽く言いたくないなあ。文学作品の根幹である文体は、堀口大學さんのものなんだから。ぼくが好きな言い回しは「なぜかというに」です。『お世辞もきかなかったはずだ、なぜかというに、彼女たちは、虚栄を知らないのだったから』という具合に。