高校生の時、となりのクラスのY君の家に、一度だけ遊びに行ったことがある。Y君とは特に仲がよかったわけではなく、どうしてそうなったのか思い出せないけど、とにかくぼくともう一人で(これが誰だったかも思い出せない)、放課後Y君の家へ行った。とても立派な家で、部屋にはギターとベースが何本か置いてあった。CDもたくさんあった。
Y君はいつもニコニコしている穏やかでハンサムな男だった。ビートルズが好きで、ギターがとても上手だった。ぼくも当時ギターを練習中だったので、Y君からビートルズの曲の弾き方を教えてもらった。Y君は教え方も上手だった。
ぼくがある程度弾けるようになったところで、Y君はベースを持ってきて、一緒に演ってみようと言った。そして「せーの」で音を出した時の快感を、ぼくは今でも鮮明に覚えている。ギター1本で弾いている時は何も感じなかったのに、Y君のベースラインと合わさった時、心が震えた。ビートルズすげえ!と思った。
するとY君のお父さんがやってきて「もう夜になるから止めなさい」と言った。ぼくはもっとやりたかったし、まだ夕方の5時ぐらいだったから、Y君が父親を説得してくれることを期待した。しかし、Y君は素直に従った。育ちがいいのだ。
このたった一度切りの合奏を、ぼくは今でも思い出す。本当にワクワクした。そしてあの時、もうひとりの友達は何をしていたんだろう?